魔族物語

【路上の夢 六話】

だから僕は

あの日からずっと

空ばかり見てるよ

愛する人よ

君のその瞳も

見つめられなくなって…

(『路上の夢』よりアルミ國土)

一歩一歩歩き出した先は、通勤ラッシュだった。歩く人、走る人、皆心がない虫のようにただ早くいくことだけを考えているかのように。
あるサラリーマン風の男が俺の腐った足を踏んでいった。ただでさえ腐りかけたような指は間接の蝶番と逆向きに曲がっていた。
「うぎゃ〜!!」
声は通勤の海に殺され、俺はモガイタ。
痛さのあまり目を開くことさえ苦痛を伴った。
「大丈夫ですか?」
確かそう聞こえた。
親切そうな女の人の声が耳に残る。何も覚えていない。どうやら失神してしまったらしい。

明かりが差しこんだ。窓の外には青い空が夏の幕のように存在していた。窓辺の花瓶には俺が好きな白百合の花が今を盛りに顔を見せていた。 少しあいた隙間の風に薄淡色のカーテンがゆっくり揺れてる。
そして
誰か近付く足音がした。

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